映画評vol.1「ロンドンゾンビ紀行」/素材最高!料理の仕方をちょっと間違えた…?

 

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 「ロンドンゾンビ紀行」(2012年・イギリス)

 

【ストーリー】

不況のあおりを受けて、祖父のレイ(アラン・フォード)が入居する老人ホーム「ボウ・ベル」が閉鎖されるのを知ったテリー(ラスムス・ハーディカー)とアンディ(ハリー・トレッダウェイ)の兄弟。ホームと祖父たちを救う資金を稼ごうと銀行強盗をもくろむが、なぜかゾンビが大量に出現してロンドンは大パニックに。祖父の身を心配するテリーたちだが、その予感は的中。ボウ・ベルにもおびただしい数のゾンビが押し寄せており、レイやほかの入居者たちが壮絶なサバイバルを繰り広げようとしていた。(シネマトゥデイより)

 

 

たまたま何かで予告編を観て、この映画に興味を持った。

予告編は「ゾンビvs老人」というコンセプト、そこから生まれるギャグ要素、そしてジーサン&バーサンたちが拳銃やらマシンガンやらをブッ放す痛快さ、といったものが全面に打ち出された作りになっていて、これを観たら誰もが「なんだか新しいゾンビ映画が登場したんじゃないのか、これは!?」と思わずにはいられないはずだ。

鑑賞後の結果から言うと「ちょっと思ってたのと違う」という感じである。

 

開始早々からゾンビが登場し、センス抜群のオープニングとテンポよく進んでいくストーリー。ふむふむ、軽そうなノリで面白いじゃないの。

と思っていたが、主人公たちが銀行強盗を目論んでいるというあたりで何となく嫌な予感が。そして仲間の一人のちょっと頭のアブナイ男が大量の武器(もちろん銃)を持ち出したところで僕は「あー、そっかー、まあ仕方ないのかなー」とちょっとガッカリ。

どういうことかと言うと、このような設定でも持ち出さない限り、ロンドンの一般的な若者が(そしてジーサン&バーサンたちが)後に現れるゾンビたちに対して拳銃やらマシンガンをファーストエンカウント直後にブッ放す理由がなかなか作れないからである。

つまり、銀行強盗とは、物語がスムーズに「ゾンビ退治」に移行するための設定なのだが、そのために最も観客が感情移入するであろう主人公を強盗(犯罪者)にする必要があったのだろうか?しかも、大量に武器を持っているのは若者チームで、彼らと老人たちが合流するまでジーサン&バーサンには(DVDのパッケージにあるような)活躍はお預けなのだ。もちろん、武器もない中、なんとかしてゾンビに対抗しようとする老人たちの行動は笑いを生むものの「ゾンビvs老人」という最もおいしいコンセプトを生かすためには、あまりに惜しい設定と言わざるを得ない。

この映画で最も面白いシーンは「足の悪いおじいさんがゾンビに気づいて必死で逃げるが、ゾンビの方も動きが遅いので、それなりのデッドヒートを繰り広げる」という、予告にもあるあの場面ではないだろうか。

例えば「あまりに動きがゆっくりすぎてゾンビにすら同じゾンビ仲間だと思われて九死に一生を得るジーサン」とか、そういう「老人ならでは」の対ゾンビの切り抜け方みたいなシーンはもう少し観たかったし、それこそがこの映画のコンセプトじゃないのかなあ。

主人公側の人間に銀行強盗なんてやらせなくても、例えば全く関係のない銀行強盗のチームが老人ホームに逃げ込んできて、最初は武力や若さなどでホームを支配しようとするが老人たちの方が一枚上手だったり、または前述の「老人ならではの切り抜け方」みたいなものに次第に屈強な強盗チームと老人チームの立場が入れ替わり……みたいな設定はどうだろうか?

冒頭で若者たちに散々なじられておいて、いざ世界が異常事態となったら、なぜか老人の方が活躍できちゃった、みたいな。

この設定ならわりと最初からジーサンたちにも活躍の場を与えられるし、「ホームアローン」に通ずる面白さや中高年に勇気を与える綾小路きみまろ的な痛快さも描けると思うのだが。

 

決してつまらないわけではないのだが、こんなおいしそうな食材をこのように料理してしまったことが残念でならない。

他にも「なぜかゾンビをゾンビとしてすぐ認識できる登場人物たち」「ゾンビのルールを“みんな”知っていると、メタ発言的な一言で片づけてしまうギャグ要素」などオモシロどころはいっぱいあるのに、なぜかそこをあんまり料理してくれないもどかしさ。

 

全体的にちょっとおとなしい印象というか、アイデアを思い付いた人と実際にストーリーを作った人は別なのではないかと勘ぐってしまうくらい、何とも中途半端な仕上がり。予告編を観て妄想してるときが、いちばん楽しいのかもしれない。

 

 

 

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