サンドウィッチマンの漫才が好きで、一時期は片っぱしから見ていた。
数ある漫才の中のひとつ「母からの手紙」というネタに、こういう場面がある。
「お母さんはパートのお金で、インターネットを買いました」
「インターネットは買うもんじゃないけどね」
別にわざわざ解説するまでもなく、母親がトンチンカンなことを言っているから面白いのだが、現実にもこれと似たような場面はないだろうか?
そして…ここからが本題だが、「トンチンカンなことを言っている」者が「自分は間違っていない」ひいては「相手がトンチンカンなことを言っている」と思い込んだとき……その考えから全く動こうとしないとき…この会話はとんでもない悲劇を生むことになるのだ。
今日はそういうお話。
漫才の例から少し膨らませていくと、こんな感じになる。
A「インターネット買いたいなあ」
B「インターネットは買うもんじゃないよ。インターネットっていう商品があるわけじゃないよ?」
A「そんなことはわかってるよ。インターネットをやるには何を買ったらいいか訊いてるだけ」
B「まずパソコンを買う。それから回線業者やプロバイダーと契約して…」
A「それはどこで買ったらいい?」
B「買う…それぞれ違うからなあ、なんて言えばいいんだろ」
A「パソコンを買ったらネットできるんだろ?」
B「いや、そうじゃなくて、プロバイダーとかと契約してはじめて環境が整うから…」
A「プロバイダーとか回線が必要なことくらい知ってるよ。お前も分からんやつだなあ。電気屋にデカデカと書いてあるよ。契約がどうのこうの」
B「うん、まあ大手の家電量販店とかだと光回線の窓口があったり、パソコンを買ったらそのままネット契約、なんてのもあるけどね…」
A「あるだろ?それを言ってるんだよ。パソコン買ったらネット出来るじゃん。間違ってないじゃん」
B「だからって、それを“インターネットを買う”なんて言い方しないし、そういう言い方してる時点で契約とかネットの仕組みそのものが分かってない証拠なワケで…」
A「言い方はなんだっていいんだよ」
B「いやいや。“パソコン買ったらネットできる”とかもそうだけど、大前提として間違ってるから!契約はそれぞれ…」
A「だから分かってるって!!変なやつだなあ、お前は。パソコンがあるだけじゃ通信は出来ない。通信させるためには契約が必要なんだろ?」
B「そうだよ…」
A「で、家電量販店とかだとそれを一括で契約まで出来るって話じゃん」
B「そうだけど、いや、そうなんだけどさ…」
A「だからそれをどこで買えばいいんだって言ってるだけの話だよ?」
B「うん………(あれ?なんだ?なんだこれは?オレが間違ってるのか?いやいや、この人は根本的に理解してないんだ…話はそこからだろ…あああ!!!)………………………じゃあ〇〇カメラでいいんじゃないすかねえ…」
A「そうやって最初から言えばいいだけの話だろ。お前は本当に頭が悪いなあ」
B「…………」
後日、〇〇カメラにて
A「すいませーん、インターネット欲しいんですけどー」
B「…………………」
自分で書いてて頭痛くなってきた(笑)
BはAの「インターネットを買う」という言い回しそれ自体を訂正したいのではなく、そんな言い方をしている時点でAが何も分かっていないと見抜いているから、まずそこから理解してもらおうと思っている。
実際Aは「家電量販店で買う→契約まで出来る→ネットが出来る→ネットを買う」という考え方しか頭にない。
Bは、そんなAにネットの仕組みを分かりやすく教えてあげようと努めるが、Aは(あくまでも本人的には)そんなことは全部知っているワケで「なぜさっと質問に答えないんだ」としか思っていない。
Bからすれば「インターネットはどこで買うのか?」という質問に対しては即答できない事情がある。なぜなら答えは存在しないから。
ここでややこしいのは、確かに家電量販店に行けばパソコンの購入からネット契約まで完了することができる。それを「インターネットを買う」という言い方で表しても、あながち間違いではない。
しかしそれならそれで「一括で済ませたいんだが、どこの家電量販店が良いか?」という質問になるはずで、やはり「インターネットを買う」と最初に平気で言っている時点で、Aはトンチンカンなのである。
しかも前述したようにいつの間にかAの頭の中で「インターネットを買うにはどうしたらいいのか?」という質問が「家電量販店を教えろ」にすり替わっている!
あまつさえ、「質問に対してトンチンカンなことばかり言って、言い回しとかにこだわっているこいつは頭が悪い」とさえ思い始めているのだ!
ここでBの前にはふたつの選択肢がある。
1.「とにかく理解してもらえるまで話し続ける」
もしくは
2.「あきらめて、自分がトンチンカンなふりを装って相手に合わせる」
1を選ぶと、高確率で悲劇が待っている。
胃が痛くなるか、血圧が上がるか、泣き寝入りか…そのへんのバッドエンドを迎えるだろう。しかも「バカでわからず屋」という汚名まで着せられて、である。
この悲劇を回避するためには、とにかく我慢することである。
まるで「アキレスと亀」のパラドックスのように、理論的には間違ってないが根本的に間違っている、みたいな文法を持ち出す人とは、いくら議論をしても決着しないのである。
「どちらが強いか決めたい」というときに、一方の男はボクシングスタイルで会場もリング、観客もボクシングの試合を見に来ているのに、現れたのが竹刀を持った剣道着男だった、というようなものである。
剣道男は「これでも戦える。どちらが強いかは決められるではないか!」と言い張る。
それに対して「どう見ても今はボクシングだろ!」と主張するが、剣道男は「だから、これでも戦えるだろ?決着つくだろ?バカかお前は」という考え方から全く動こうとしない。
「確かに理論的には間違っていないが……でもそうじゃないだろ、根本的に」と、その場に居る誰もが思っていたとしても。
「論破する」という言い方があるが、これでは論破もドドンパもない。相手が大前提のルールの上に乗っていないのだから、勝てるわけがない。
ある意味無敵なのだ。そういう意味ではAは無敗なのだ。事実、無敗なのだ!
それがまたAに「自分はいつだって正しい」という考え方を増長させる。
パズルや法則クイズなんかを解くときに、頭の良い人は先入観を無くしてフラットな状態でいるから解けるらしい。逆に解けない人は思い込みで勝手に問題文に条件を付け加えたりするから答が導き出せないらしい。
所謂、頭が固いというやつだ。
本当に賢い人はクイズに一緒に悩むふりをして、トンチンカンな答えに一緒に納得するしかない。
例え、あなたが百戦錬磨のクイズ王だとしても……。